社会的共通資本(SCC)とは?―持続可能な社会を築くための視点
現代社会では、経済的な合理性や金融市場の論理が過度に重視され、その結果としてさまざまな社会課題が生じている、という認識が広がっています。私たちはこの状況に対し、社会的共通資本(Social Common Capital: SCC)という概念を基礎に、多様な形態の資本の価値を再評価していく必要があると考えています。これは、単なる経済的価値だけでなく、社会全体のwell-being(幸福や健康)を向上させるような、本質的な価値を持つ活動を2050年、さらにはその先を見据えて推進していくことを意味します。
未来を見据えたSCCの再構築
宇沢弘文博士がSCCの概念を提唱されて以降、社会は劇的に変化しました。具体的には、AIの高度化やバイオテクノロジーの進展といった技術革新、社会構造や経済システムの変化、環境・気候変動問題の深刻化、文化や人間生活の変容、そして複雑化する政治・国際関係などが挙げられます。
私たちは、これらの社会変化、そして未来に起こりうる変化を深く考察し、SCCの全体像、さらには各論について詳細な検討を進めています。このプロセスで得られたデータや知見をもとに、2050年以降の社会において特に重要となるSCCとは何か、そして私たちが目指すべき未来社会のビジョンを明確に提示することで、SCC概念のさらなる発展と深化を図っていきます。
第1期の部門長を務めた広井良典教授から、2025年4月に京都大学における社会的共通資本に関する研究部門の部門長を引き継いだ。「健康の社会的決定要因」について、主に疫学の手法を用いて解明し、そこから生じる健康格差を制御するための研究に従事。
本研究は、自然環境/自然資本と社会的共通資本を統合した「自然-社会共通資本」を基盤に、シネコカルチャーや拡張生態系による食料生産や都市緑化、健康福祉の向上を世界的に推進します。その利点や社会条件を多角的に評価し、拡張生態系の導入効果をグローバルに可視化します。また、他組織と連携した実践を通じて、文化や経済など他分野への波及効果も検証し、持続可能な資源管理に貢献することを目指します。
本研究では、国土交通省「まちなかウォーカブル推進事業」はじめ、歩行や社会的交流を促進する他のコミュニティ開発プログラムの社会的インパクトを多面的に評価します。これにより、都市開発における社会的インパクト評価の事例や評価指標、さらに評価手法や事業推進のためのガイドラインを開発します。ウォーカブル推進都市とそうでない都市を比較し、390自治体のうち119自治体が指定するウォーカブル区域を活用した社会調査を行い、政策の効果を分析します。
テーマ① 文化資本・社会関係資本概念の計量化と社会福祉制度(福祉・医療・介護等)への実装
医療機関や芸術系大学、アート系事業家によるコミュニティプログラムを開発・実装し、多面的な社会インパクトを評価します。また、疫学・経済領域の既存調査を用いて、文化資本や社会関係資本の多面的社会インパクトについてのシミュレーション研究・因果推論研究を進めます。
テーマ② 制度資本としての学校保健評価枠組みの構築:WHOヘルスプロモーティングスクール理論に基づく日本版指標の開発を行います。
テーマ③ 寄付募集のための制度的実践のアクションリサーチ:制度理論に基づく寄付募集活動の理論化とその実践を行います。
テーマ④ 障がい者芸術表現と人間の尊厳に関する神経美学的・制度的評価研究:障がいのある人の芸術表現が鑑賞者や社会に与える影響を「尊厳」の観点から解明し、文化福祉領域での制度資本としての社会実装を探求します。
上記の3つの領域の研究を進める中で、SCCに関する宇沢理論を批判的に発展・深化させる理論研究を行います。医療制度においては事後的な医療だけでなく、予防医療制度・健康や介護予防政策を位置づける可能性も考慮し、国レベルの制度資本だけでなく、コモンズ・社会関係資本などコミュニティレベルの資本の重要性について研究します。
経済学者・宇沢弘文(1928-2014年)の提唱した概念で、水や空気、海洋、土壌などの「自然環境/自然資本」、交通、上下水道、電力・ガスなどの「社会インフラストラクチャー」、教育、医療、司法、金融、文化などの「制度資本」の3つのカテゴリーが社会的共通資本に含まれます。
メンバー(※詳細はこちら)
教授・部門長 近藤 尚己
特任教授 舩橋 真俊、近藤 克則
特任准教授 喜屋武 享
特定准教授 渡邉 文隆
非常勤研究員 河岡 辰弥、鈴木 吾大、川村 健太、若尾 尚美
医学研究科 特定研究員 Du Zhen