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10/29開催「市場主義からプラネタリーウェルビーイングへ」vol.2~文化を処方する、モノ・コトをデザインでつなぐ~

日時:2025年10月29日(水)15:30-17:30  ※15:00 受付・開場
会場:京都大学東京オフィス会議室A・B(新丸ビル10階)
参加:申込み62名・当日参加40名
講師:経営管理大学院特定准教授 小幡 真也
   医学研究科社会疫学専攻 特定助教 土生 裕氏
進行:当部門 連携研究員/内科医 占部まり
主催:京都大学 成長戦略本部・Beyond 2050社会的共通資本研究部門
共催:京都アカデミアフォーラム in 丸の内

内容

◆オープニング&アイスブレイク 占部まり
本シンポジウムは、現代社会が直面するウェルビーイングの課題に対し、「文化」というレンズを通して新たな解決策を探ることを目的としています。自身の父である宇沢弘文氏が提唱した「社会的共通資本」の概念に触れ、「金銭に換えられない大切なものを、いかに社会全体で守っていくか」という問いが本日の議論の核心です。
◆話題提供1「文化資本と文化的ウェルビーイング」 土生 裕 プロフィール
社会疫学という定量的な科学的アプローチを用いて、「文化」という本質的に定性的な領域が人間の健康や幸福に与える影響を解明しようとしています。一見遠そうに見えて、世阿弥が遺した「芸能とは、人の心を和らげ、上下の感をなさんこと」という言葉にあるように、文化活動が目指す「人々の心の平穏」や「格差の是正」は、まさに公衆衛生(パブリックヘルス)が追求する目標と本質的に一致しています。具体的な実践例として、兵庫県養父市で始まった「社会的処方」(医療機関が患者を地域のコミュニティ活動につなぐ取り組み)を挙げ、これを文化の側から捉え直す東京藝術大学との共同プロジェクト「文化的処方」において、自身の研究室がその効果検証を担い、理論と実践の往還を目指しています。アートが持つ、マイナスをプラスに転換し、交換不可能性や目的のなさを許容する力について、金子みすゞの「みんなちがって、みんないい」にあるように、多様な価値を尊重する文化の重要性を訴えていきます。
◆話題提供2「ゆたかさを生み出すキュレーション×デザイン」 小幡 真也 プロフィール        
インダストリアルデザインとアートキュレーションという二つの異なる視点を往還することで、「豊かさ」を社会に実装するための具体的な方法論を提示します。デザインが国境を越えて共通の様式を形成し、「文明の様式」を方向付ける活動で、技術革新に伴う新しいライフスタイルを形作る役割を担うのに対し、キュレーションとは、 例えば、地元にゆかりのあるアーティストの作品を集めた展覧会の企画のように、既存のものを集め、新たな文脈やストーリーを与えることで「文化」を方向付ける活動と定義できます。実際、青森で開催した展覧会では、日本の美術館の年間来場者数の中央値(約 1 万 4 千人)を大きく上回り、 1 ヶ月で約 3 万人の来場者がありました。場所や文脈を適切に設定するキュレーションの力が、文化へのアクセスを飛躍的に高める可能性を持つことを示す好事例といえるでしょう。これらの経験から、自身が担う役割や文化の方向性を常に意識すること、そして何より「友達と楽しむ」という姿勢が、ウェルビーイングに繋がるアート活動の要点ではないでしょうか。
グループディスカッション・全体討議
<グループ1>
今年の万博では、各パビリオンの展示に統一されたコンセプトやストーリーが欠如しており、単なる物産展のような「陳列」に留まり、1970年の万博で見られた「未来へのワクワク感」が失われたのではないかと述べ、コンセプトを定め、一貫したストーリーを伝えるキュレーションの力が極めて重要ではないでしょうか。
⇒コンセプトを明確に設定し、現場の隅々にまで浸透させ、来場者が体感できるストーリーを構築することが重要であり、ストーリーなき展示は単なる「陳列」に過ぎないというご指摘に深く同意します(小幡)。
<グループ2>
アートはウェルビーイングのための「手段」であり、最終的に最も重要なのは「人の繋がり」ではないか、という本質的な議論が提起されました。アートとの関わり方として、専門家の作品を一方的に「鑑賞する」だけでなく、俳句やお茶のように、誰もが「自ら実践する」文化も受容だと考えます。
⇒わたしたちの調査においても創作活動と鑑賞では異なる効果が見られます(土生)。
<グループ3>
単身世帯の増加という現代的な社会変化を背景に、孤立しがちな人々のウェルビーイングをどう支えるか、また、経済的に困窮し、文化活動への参加が困難な人々をどう包摂していくか、という根源的な課題があると思います。
⇒経済的困窮者の包摂こそ「社会的共通資本」の核心です(占部)。
⇒最後のセーフティネットとして機能する医療機関を起点とする「社会的処方」や、地域に溶け込み気軽に相談できる「コミュニティナース」のような具体的な取り組みがります(土生)。
<グループ4>
アートプロジェクトの価値を、来場者数や経済効果といった定量的な指標だけで測ることに違和感があります。アートがもたらす、感動、思索、コミュニティの活性化など多面的な価値を、いかにして適切に評価するかが大きな課題ではないでしょうか。
⇒アートへのアクセシビリティを高めること、なかでも誰もが文化に触れる機会を保障する公教育の役割は大きいでしょう(小幡)。

登壇者

問合せ 京都大学Beyond 2050社会的共通資本研究部門 scc-center@mail2.adm.kyoto-u.ac.jp